最近、衰退した国や衰退した組織を復活させるにはどうすればいいのだろうかと思うことが多くなりました。
衰退というのがポイントで、昔は栄えていたが今は衰退している。しかし組織にあまり危機感がない。
その上、栄えていた時代にできた利益団体や既得権益者も存在し、改革がうまく進められない。
組織がお金もない、人脈もない、ないないないの状態だと組織に対する無駄の削減なんかはする必要がありません。なぜなら、そもそもないから。
しかし、衰退した組織というのは、これができない。どこかにある無駄を削る必要があります。つまり、誰かを傷つけることになる。
これって結構、難しい。
しかし、これを成し遂げたリーダーもいるのです。それがドイツの首相。「ゲアハルト・シュレーダー」です。
ドイツ経済の復活の真の立役者はメルケル首相ではありません。シュレーダーです。ここは労働経済を学んだ人なら結構知ってるかも。
本もちゃんとありました。「ドイツ中興の祖ゲアハルト・シュレーダー」です。ちょっと、読んでみたので感想をつらつら書いてみます。
ゲアハルト・シュレーダーはメルケル首相のひとつ前の首相です。任期は短く、日本では馴染みのない政治家ですが、彼のやった改革「アゲンダ2010」がドイツ経済復活の鍵となりました。
この改革は5つの柱です。
まぁ、ざっくり要約すると社会保障を削り、企業活動が活発になるように枠組みを大きく変えたわけです。詳しい改革の中身については、本のリンクを貼ってるのでぜひ買って読んでください。
シュレーダーの、この改革はやろうと思ってもなかなかできるもんでもありません。やったら嫌われるのは確実だし。現にシュレーダー政権は支持を失い任期満了を待たずして退陣しています。
国民に対しても厳しい口調で「国に頼らないで欲しい。国民一人一人が国のために何ができるのかを考えて欲しい」と。よくこんなセリフが言えるよなぁと思ってしまいます。
でも、彼はこの改革をやってのけたのです。嫌われるとわかっていても。そして、自分がその果実を首相という地位で得ることは不可能だということもわかっていたのです。
シュレーダーが首相の座についたのは1998年です。「アゲンダ2010」の2010は、この年になれば改革がうまくいき文字通りドイツは復活しているというプランだったのです。本当だったら「アゲンダ2000」でもいいはず。
実際、「アゲンダ2010」の改革の果実を得たのはメルケル首相です。メルケル首相自身も、その点については認めています。
「私はシュレーダー氏が彼の『アゲンダ2010』によって改革のための扉を勇気と決断力をもって開き、様々な抵抗にもかかわらず、この改革を実行したことについて、個人的に感謝したい」
シュレーダーとメルケルは所属の党が違うので、その中で他党の党首が、これほど賞賛を与えたのはかなり異例なことです。
それほど、「アゲンダ2010」はすごいことなのです。
かつてのドイツや日本もそうですが、経済は停滞し、スゴイ悪い状態です。
悪い状態の時に良いことしか言わない人には気をつけるべきというのは僕の持論です。
だいたい、こういう時に出てくるのタイプは2通り。
いますよね。こういうタイプ。
周りに慕われて、支持率も高くて、でも結果が出ないで。みんなで仲良く衰退していく。
でも、すごく居心地がいい。現実に目をそらすのは、まぁ人間なら誰しもやってしまう。
けど、こういう組織や国は危機がくるとあからさまの格差がつく。共産主義国みたいなもんです。
格差が固定化され一度、下に落ちてしまった人にチャンスはない。
上にいる人は今の状況を維持しようと邁進するので、基本は何もしない。口では改革やらイノベーションや所得を上げるなど耳ざわりのいいセリフを言いますが。
まぁ、何も起きません。ただ、衰退するだけです。
こういう組織で下のいる人は、今すぐ脱出した方がいい。どんな組織もピラミッド上なので、こういう場合は下から犠牲になります。絶対。
the、シュレーダータイプ。国民に対して「国に甘えすぎたらから国が衰退したのだ! だから国に甘えるな、国に貢献せよ」みたいなことを平気で言ってしまう人。
すごく嫌な人ですが、自分が衰退した組織にいて下にいるなら、こういう人を支持した方がいい。
こういう人はいい意味でも悪い意味でも組織を壊してくれる。上の人も下の人も関係なく。
下にいて、上に行くチャンスもないなら、組織を破壊してチャンスをくれる人に賭けるべきです。
シュレーダーの改革は一般大衆には評判が悪かったですが、一部の層には大絶賛されています。それは、高所得層です。「シュレーダーの改革がなければ今の自分はなかった。メルケルのおかげではない」というのです。高級車に乗りながら。
本来なら低中所得者層にこそ、シュレーダーの改革は支持されるべきなのです。これまで職がなかった人に職を与え、所得が低かった人の所得が上がったのですから。一時的には職を失うこともありましたが、一層の努力を行うことで、果実を得ることができたのです。
おそらく高所得層の彼らはかつては中所得者だったが、シュレーダーのおかげでこれまでの努力が実り、その上、規制が緩和されたことで大きく成功することができた。だからシュレーダーに感謝する。しかし、なんの努力もせずただ国に頼り補助金漬けになっていた人は、否応無しに市場に放り出され競争を強いられた。だからシュレーダーが嫌い。
シュレーダーがいなければ、その補助金もついには底をつき悲惨な生活になっていたというのに。
まぁ、結局、人間は惰性の生き物だということですね。強烈な危機がこないと組織や国は変わらないということです。
シュレーダーの本は面白いので、ぜひ、読んでください。政治的に難しいことを信念を持って成し遂げた人の話は面白いです。